< UFC Fight Night 161(UFC on ESPN+ 19)>
2019年10月12日(土・現地時間)
アメリカ・フロリダ州タンパのアマリー・アリーナ

▼セミメインイベント フェザー級 5分3R
○カブ・スワンソン(35=アメリカ)
判定3-0 ※30-27、30-27、30-27
×クロン・グレイシー(31=ブラジル)

 スワンソンは今大会でキャリア36戦目となるベテラン。UFC世界フェザー級ランカーとして活躍してきた。戦績は通算で25勝(8KO・TKO/7SUB)11敗、UFCで10勝(4KO・TKO)7敗。何よりその激闘ぶりで知られる選手だ。

 近年では2016年12月の『UFC 206』。チェ・ドゥホ(韓国)とダウンを奪い合う、まさにド突き合いという壮絶な打撃戦を繰り広げ、年間ベストファイト選出となった。その試合の4カ月前の『UFC Fight Night 92』では、川尻達也から苦戦の末に判定勝ち。しかし、2017年4月の『UFC Fight Night 108』でアルテム・ロボフ(ロシア)に判定勝ちして以降は、4連敗と苦しい状況が続いている。

 対するクロンは、2015年から2016年にかけて『RIZIN』で山本アーセン、所英男、川尻の日本人3選手から一本勝ち。その後、約2年の時を経て、今年2月の『UFC on ESPN 1』でついにオクタゴンデビューを果たした。そして、アレックス・カサレス(アメリカ)を開始2分06秒のリアネイキドチョークで絞め上げ、一本勝ちで初陣を飾っている。戦績は通算5戦全勝。言うまでもなく、全試合で一本勝ちだ。

 クロンのセコンドには父ヒクソン・グレイシーが就く。

 1R、クロンはサウスポーに構え、前蹴りを出しながらプレッシャーをかけるお馴染みのスタイル。スワンソンはスイッチを繰り返しながら同じ位置にいないよう左右に動き回り、右ジャブや右フックを一発放っては離れる。スワンソンが鋭い右ボディで先制し、続けて左ローもヒット。クロンはなおもスワンソンを追いかけながら右ジャブと左ストレートを伸ばすように打つが、なかなかとらえることができない。

 スワンソンは打つ時は打つ、離れる時は離れる、というメリハリのある攻めをみせ、3分が経過する頃、右インローから左フックと右ストレート、そして右ボディストレートの見事なコンビネーションを叩き込む。間合いが縮まるとさらにハイガードを取るクロン。スワンソンはすかさず右ボディー。クロンはパンチの手数を増やして追いかけるが、スワンソンは変則的な足運びと上体・ヒザの滑らかな動きでマタドールのようにかわしていく。終了間際にはスワンソンの右ミドルも炸裂する。

 2R、お互いのスタイルは変わらず。巧みに出入りするスワンソンは左後方へステップして大きく距離を取る動きから、急に動きを止めて右アッパー。アゴを打たれたクロンは左フックを当てにいくが、既にスワンソンはその場にいない。スワンソンはワンツースリーの高速リズムで、左右ボディから顔面に左フックをヒット。それでもクロンは前にぐんぐん歩を進め、1分30秒に差しかかったところでようやく右ジャブと左ストレートを届かせる。

 この試合初めてケージを背負ったスワンソン。両者が片手クリンチで右フックを入れ合う状態になると、スワンソンはさっと離れ、直後にクロンが自らの顔を手で拭うのを見逃さず、右ボディを叩き込む。クロンはすぐに間合いを潰し、クリンチから飛びついて引き込もうとするがすっぽ抜けてしまう。クロンが再度、飛びつくと同時に今度は両足で相手の胴を挟んで引き込まんとするが、スワンソンは鉄槌を落としてこれを外す。しかし、終盤に入ると疲労してきたスワンソンはステップの切れが落ち、クロンのパンチを被弾して右目尻から出血する。

 3R、パンチの打ち合いになると、ハンドスピードとバリエーションで勝るスワンソンがリード。クロンもスワンソンの離れ際に右ジャブや左ストレートを当てるが、大きなダメージは与えられない。クロンは右ジャブを連打しながら強引に突っ込むが、スワンソンはケージ際まで一気に下がって右アッパーで迎撃。クロンはクリンチも捌かれる。パンチを上段にまとめてから前蹴りで腹を蹴るスワンソン。クロンは右ジャブを伸ばし、そのまま組みついて投げを打つが、これもスワンソンに捌かれてしまう。

 残り時間2分。疲労の色がさらに濃くなる両者。片手クリンチからアッパーを入れ合い、手を離せばすぐにパンチを激しく交錯。キレは落ちれど手数を緩めないスワンソンが、相手よりも一発二発三発と多めにパンチを出し、特に右アッパーと右ボディの有効打を追加していく。そして残り時間1分。クロンがタックルからついに引き込むことに成功するが、スワンソンは落ち着いてディフェンスして立ち上がる。最後もクリンチにくるクロンに対し、スワンソンがパンチのコンビネーションをまとめ、試合終了となった。

 スワンソンが判定3-0で4連敗から脱出する大きな勝利。クロンはMMA(総合格闘技)6戦目にして初黒星となった。判定の結果を聞くと、クロンはこくこくとうなずき、スワンソンに握手を求めて互いの健闘を称えた。

 勝利者インタビューに臨んだスワンソンは「疲れたよ」と第一声を発し、「素晴らしい戦いをみせるためには2人必要だ。彼に敬意を。彼は最後まで立って俺と戦った。グレイシーファミリーがこのスポーツのためにしてきた貢献を思えば、心から尊敬するのは当然のことだ」と、クロンとその一族に対して敬意を示した。

 そしてコメンテーターの元UFC世界ミドル級王者マイケル・ビスピン(イギリス)から「隠さずに教えてほしい。勝者としてこの場に戻ってきた今の気持ちは?」と聞かれると、スワンソンは笑みを浮かべながらも声を詰まらせ、「言葉にできないよ。(自分の顔を指差しながら)これがすべてさ」と返して涙をこらえた。


▼メインイベント 女子ストロー級 5分5R
○ヨアンナ・イェンドジェイチェク(32=ポーランド/UFC世界女子ストロー級5位)
判定3-0 ※50-45、50-45、49-46
×ミシェル・ウォーターソン(33=アメリカ/UFC世界女子ストロー級7位)

 ヨアンナは2017年11月に迎えたUFC世界女子ストロー級王座6度目の防衛戦で、ローズ・ナマユナス(アメリカ)に衝撃のKO負けを喫し、ベルトを失うとともにキャリア15戦目にして初黒星。昨年4月のダイレクトリマッチでも判定負けとなり王座奪還を果たせなかった。それから3カ月後の再起戦で勝利を飾ると、同年12月には階級をひとつ上げ、ワレンチナ・シェフチェンコ(キルギスタン)とのUFC世界女子フライ級王座決定戦を争ったが、判定で敗れた。今大会では1年2カ月ぶりのストロー級で再起を図る。

 対するウォーターソンは2013年4月、浜崎朱加も巻いたInvicta FC世界女子アトム級王座のベルトを獲得。UFCには2015年7月から参戦している。UFCデビュー2連勝後にナマユナスとティーシャ・トーレス(アメリカ)に2連敗するも、そこから3連勝を収めて復活。今大会では初のUFCタイトル戦に近づくべく、元女王越えを目指す。

 戦績はヨアンナが通算で15勝(4KO・TKO/1SUB)3敗、UFCで9勝(2KO・TKO)3敗。ウォーターソンが通算で17勝(3KO・TKO/9SUB)6敗、UFCで5勝(2SUB)2敗。フィニッシュ率はウォーターソンがヨアンナを上回っている。

 1R、構えは両者ともにオーソドックス。ウォーターソンは左へ右へと動きながら関節蹴りと横蹴りを放ち、ヨアンナがパンチで仕掛けてきたところでタックル。ヨアンナは吹っ飛ばされながらもケージを背負って踏ん張る。しばし組みの攻防になると、ウォーターソンは右フックを当てて離れた。

 ウォーターソンはサウスポーにスイッチして横蹴りを放ち、再び組みついていくものの、ヨアンナに巧く体勢を入れ替えられてケージに押し込まれる。ヨアンナが気合いのかけ声とともにヒザ蹴りとエルボーを打ち込み、ウォーターソンは鼻から出血。ウォーターソンはパワーで体勢を入れ替えんとするが、逆にヨアンナに背中を許してしまう。ここでホーンが鳴った。

 2R、オーソドックスでスタートしたウォーターソンだが、ヨアンナに右ローと左インローを連続で叩き込まれるとサウスポーにスイッチ。ウォーターソンが関節蹴りから右ジャブを打って組みつこうとしてくると、ヨアンナはプッシュして右ローをヒットさせる。再びオーソドックスに戻したウォーターソンは左ジャブから左ミドル、左ジャブから前蹴りを繰り出すが、間合いが遠く届かない。

 リーチで勝るヨアンナは再び右ローと左インローで、ウォーターソンの前足を攻める。ヨアンナのテイクダウンディフェンスが固く、ウォーターソンは組みとタックルをことごとく捌かれてしまう。終盤には関節蹴りを狙ったウォーターソンに対し、ヨアンナが見事に右ハイを合わせる。ウォーターソンはアゴを跳ね上げれるもニヤリと笑みを浮かべた。

 3R、ヨアンナは左ジャブからの左右ローに、右ボディーストレートと右ミドルも織り混ぜて攻勢。ウォーターソンはサウスポーで関節蹴り、オーソドックスで左ミドルを返すが、蹴り終わりにヨアンナの右ローを被弾する場面が多い。ならばと右オーバーハンドで切り込むウォーターソン。ヨアンナはアゴを下げてクリーンヒットさせず、すぐさま左フックの二連打を返し、ウォーターソンが嫌がって離れようとしたところで右ローを叩き込む。

 前がかりになるヨアンナに対し、ウォーターソンは顔面前蹴りを狙うが、これは惜しくも鼻先をかすめる。ヨアンナはすかさず組みつくと、ウォータソンの体を荒々しく振り回してテイクダウン、そしてチョーク。ウォーターソンは外して立ち上がる。残り時間1分。右ストレートで踏み込んだヨアンナに対し、ウォータソンが組みついてついにテイクダウン成功。ウォーターソンはヨアンナの背中越しにチョークで攻める。しかし、ヨアンナはウォーターソンを背負ったまま立ち上がり、振りほどくやいなや右ミドルから怒濤のパンチと右ローでラッシュ。直後にホーンが鳴ると、ウォータソンは鼻血を流しながらやられたと言わんばかりの笑顔を浮べる。

 4R、ヨアンナはワンツーから右ロー、組みを捌いての右ロー、蹴りを空振りさせての右ローと、攻撃が止まらない。ウォーターソンは前蹴り、横蹴り、左右ハイを散らすが、いずれもかわされるか届かないかだ。ウォーターソンはなんとかタックルから組みつくが、ヨアンナに力負けして背中を許してしまう。なんとか胸を合わせるウォーターソンに対し、ヨアンナは首相撲から顔面ヒザ蹴りの猛連打。ホーンが鳴ると、ウォーターソンは深いため息とともにその場に立ち尽くす。

 5R、観客からの大歓声に手を掲げて応える両者。ハグを交わして最後の3分に臨む。ヨアンナは左ジャブと左ローを細かく打ち、仕掛けどころではパンチをワンツスリーフォーまで繰り出す。ウォーターソンは顔面前蹴りでカウンターを取ろうとするも、ことごとく空を切る。ヨアンナは飛びヒザ蹴りから組みつき、ウォーターソンをケージに押し込みながら腹にヒザ蹴りを突き刺す。

 プッシュして自ら離れるヨアンナ。残り2分に迫ったところで、ウォータソンは組みついてテイクダウンに成功し、背後からのチョークを狙う。しかし、今度もヨアンナがウォーターソンを背負ったまま立ち上がり、そこから絡む腕を解いて胸を合わせる。プッシュして離れたヨアンナは、ノンストップでパンチのコンビネーションと組んでのヒザ蹴りを加えて駄目押しし、試合終了を迎えた。

 再起戦のヨアンナが3連勝中と好調のウォーターソンを完封し、満場一致の判定勝ち。復活の狼煙を上げた。

 マイクを向けられたヨアンナは、「みんな、私は以前、『この試合は私のパーティーになる』と言ったでしょう。スイングして気持ちもハイ。2R終盤に足を痛めたけれど戦い切った。とてもハードだった。みんな、今日は来てくれありがとう。私は数年前にフロリダに越してきた。私の母国はポーランドだけれど、フロリダは第二の故郷よ。みんなと家族にとても感謝している」と勝利を喜ぶ。

 そして「次の相手は?」との質問には、「クイーンは誰かしら?デイナ(デイナ・ホワイトUFC代表)、すぐに電話ちょうだい」と答え、絶対女王復権に向けてタイトル挑戦をアピールした。

 一方、かなりショックが大きかった様子のウォーターソンは、マイクを受けられるや否や、下を向いて涙。「私の意図した結果は得られなかったけれど、自分に失望してはいない。ヨアンナとオクタゴンを共有できて光栄だった。トレーニングキャンプの間も集中力を維持するのは大変なこと。戻ってから何がダメだったのか見直したい。自分がミスしたことは分かっている。ケージに詰まってカットされてしまい、抜け出せなかった。レッスンと学びね。また戻ってくるわ」と再起を誓った。


▼MAIN CARD ウェルター級 5分3R
○ニコ・プライス(アメリカ)
KO 1R 1分44秒
×ジェームズ・ヴィック(アメリカ)

▼MAIN CARD 女子ストロー級 5分3R
×マッケンジー・ダーン(アメリカ)
判定0-3 ※27-30、27-30、27-30
○アマンダ・ヒバス(ブラジル)

▼MAIN CARD ライト級 5分3R
○マット・フレヴォラ(アメリカ)
判定2-1 ※29-28、29-28、28-29
×ルイス・ペーニャ(イタリア)

▼MAIN CARD ミドル級 5分3R
○エリク・アンダース(アメリカ)
判定2-1 ※29-28、29-28、28-29
×ジェラルド・マーシャート(アメリカ)

▼PRELIMS ライトヘビー級 5分3R
○ライアン・スパン(アメリカ)
一本 2R 2分01秒 ※ギロチンチョーク
×デヴィン・クラーク(アメリカ)

▼PRELIMS ライト級 5分3R
○マイク・デイビス(アメリカ)
KO 3R 4分45秒
×トーマス・ギフォード(アメリカ)

▼PRELIMS ウェルター級 5分3R
×マックス・グリフィン(アメリカ)
判定0-3 ※27-29、27-29、28-29
○アレックス・モロノ(アメリカ)

▼PRELIMS フライ級 5分3R
○デイヴソン・フィゲイレード(ブラジル/UFC世界フライ級3位)
一本 1R 3分08秒 ※ギロチンチョーク
×ティム・エリオット(アメリカ/UFC世界フライ級6位)

▼PRELIMS バンタム級 5分3R
○マルロン・ヴェラ(エクアドル)
TKO 3R 3分17秒
×アンドレ・イーウェル(アメリカ)

▼PRELIMS ウェルター級 5分3R
○ミゲル・バエザ(アメリカ)
TKO 2R 2分32秒
×ヘクター・アルダナ(メキシコ)

▼PRELIMS ミドル級(185ポンド・83.9キロ) 5分3R
○マービン・ヴェットーリ(イタリア)
判定3-0 ※30-27、30-27、30-27
×アンドリュー・サンチェス(アメリカ)

▼PRELIMS 女子フライ級(125ポンド・56.7キロ) 5分3R
○J.J.アルドリッチ(アメリカ)
判定3-0 ※29-28、30-27、29-28
×ローレン・ミューラー(アメリカ)