バダ(左)とリコ(右)がそろって会見に臨んだ
Photos(C)GLORY

 2019年12月21日(土・現地時間)オランダ・ヘルダーラント州アルンヘムのヘルレドームで開催される『GLORY: COLLISION 2』の記者会見が、10月17日(木・同)に行われた。

 会見には大会メインイベントのヘビー級ワンマッチで対戦が決まっている、元K-1の“悪童”ことバダ・ハリ(34=モロッコ/オランダ)とGLORY世界同級王者リコ・ヴァーホーベン(30=オランダ)が出席。試合に向けた現在の心境を語った。

 両者はこれが3年ぶりの再戦。初対決は2016年12月にドイツ・オーバーハウゼンで開催された『GLORY 36: Oberhausen』のヘビー級ワンマッチとして行われ、この時はバダが試合中に肩を痛めて続行不可能となったため、リコの2R1分22秒TKO勝ちという消化不良な幕切れを迎えている。

 欧州キックボクシング界きってのビッグネームが本拠地オランダで迎える再戦というだけあって、この日の会見には多数の報道陣や関係者が詰めかけた。

 会見のやり取りは以下に綴った通り(※なるべく発言者の意図を汲んで訳すように努めておりますが、意訳になっている部分や省いている部分もあります)。

 バダは胸元に「BADR ARMY」(バダ・アーミー)とプリントされた黒いパーカーを着て登場。会場からはそのBADR ARMY、すなわちバダ軍団とおぼしきグループが、バダがコメントするたびに大きな声援を送り、リコに対してはブーイングを浴びせるのが印象的だった。

 両者とも記者からの質問には英語で丁寧に、そして冗舌に答えており、比較的に穏やかな雰囲気で会見は進行されたが、試合の結果予想を聞かれた辺りでは互いの言葉を遮るようにして舌戦。バダはリコから2016年12月の前戦(ヘスディ・ゲルゲスに判定勝ち)での戦いぶりを駄目だしされると、机を叩いてかなり苛立った様子をみせていた。

 なお、同席したGLORYのマーシャル・ゼラズニクCEOは、この試合が3分5Rで行われることを明らかにしている。

Q. バダに質問です。前回のリコとの試合から3年が経ちます。あなた自身、そして戦いということにおいて、当時と今を比べて何か違いはありますか?

バダ「大きなところではあまり変わっていない。違いがあるなら、準備がもっとしっかりとできていて、体の調子もより良く、より強くなり、マインドセットも変わり、今回は100%試合に向けて集中できている。この試合の他に争うようなことは何も無い。前回の時はリングの外でもバトルしないといけないことがあった。思うに、これが最大の違いじゃないかな」

Q. リコにも同じ質問を。

リコ「前回との最大の違いは、俺たちが進化したということだ。より成熟し、肉体的にもっと強くなり、試合経験も積んでいる。俺はいつだってどの試合においても最高レベルのプレッシャーをくぐり抜けてきた。やるべきことを継続し、最高のパフォーマンスを発揮して勝ってきた」

Q. バダに質問です。あなたはリコのことをどのように見ていますか?リコが善であなたが悪という構図でライバル関係が描写されることが多いです。あなたは競技において、善vs悪の構図が必要だと思いますか?

バダ「…(苦笑)。俺は自分のことを悪人だとは思ってないぜ。メディアがそのイメージを作ったのさ。俺も少しは手伝ったけどね(笑)。でも『バットマン』を観れば、ジョーカーが必要だと理解できるだろう?良いことも悪いことも常に存在する。もし彼が善なら俺は悪。それがアリーナを満員にするのさ。であるなら彼が善で俺が悪としておこう」

Q. 続けてリコに質問です。競技以外の面でも環境が変化しているようですね。インスタグラムのフォロワーも増え、ハリウッドスターになりたいというような野心もあるかもしれない。前回のバダとの試合の時と今では、あなたの目標意識も異なるのではないですか?

リコ「それはない。基本的に俺は常に自分の立ち位置が分かっているし、その他のビジネスについても同じだ。アスリートとしてのリコ、そして家族の一員としてのリコ。他のビジネスはその後に続くものさ。試合の有無に限らず、リコはどんな時だってアスリートだ。試合が近くない時でも毎日トレーニングしている。日頃から70%くらいをキープしているから、100%のモードに入ることはそれほど難しくない」

Q. もし映画スターとして『オーシャンズ11』のような映画の大役を演じる仕事のオファーが来ても、あなたにとっては12月21日の試合で勝つことの方が大切ですか?

リコ「絶対にそうだ。この試合に勝つことの方が大事だ」

Q. 両選手に質問です。試合まで約2カ月ですが、今日が1Rなのかもしれいない。この記者会見はあなたたちにとってどんな意味がありますか?こうした場でどのようなアプローチを考えていますか?

リコ「俺から始めよう。この会見はとても重要だ。アリーナは既にソールドアウトだ。素晴らしいよね。みんなのためにも追加の火花と宣伝といったところかな。試合があることはみんな知っているし、メディアも集まっている。12月21日が待ちきれないね」

Q. 対戦相手を心理的に揺さぶるチャンスだと思っていますか?それともそれは違うと?

リコ「そうだね。心理戦はすでに始まっている。SNS上で色々やったりするのかもしれないが、最終的には12月21日までにメンタルもフィジカルもともに強くなっていないといけない。だから、あまりそこに固執したくはない」

Q. バダは会見についてはどう捉えていますか?

バダ「来いと言われたから来たんだ」

Q. メディアの注目度も高まっています。リコに聞きますが、あなたはこの状況を楽しんでいますか?当日はもっとすごい注目度になると思います。

リコ「もちろんさ。俺はその状況を楽しんでいるし、歓迎している。なぜなら俺はこの競技をより高い次元へ、誰もに楽しんでもらえるようにしていくことを目指しているんだ。リング外で何が起ころうとも、それはリング外の話しだ。リング内では競技者として最高レベルのパフォーマンスを披露したい。そしてスポーツでありエンターテイメントでもあるということを示したい。試合はタフなものだが、最後はお互いをリスペクとして終わりたい。試合が終われば家に帰って家族とともに人生を満喫したい」

Q. バダも注目されることを楽しめていますか?

バダ 「もちろんだよ。注目されるのは好きだね(笑)。これも生きる理由さ。こうした戦いを経験できることもね。注目されているということは、それなりに正しいことができている証しでもある。『自分自身のために』とか、『戦うことが好きだから』とか、俺に言ってみやがれ。クソ喰らえさ。俺はカメラのフラッシュが好きだ。あればあるほど楽しめる」

Q. リコに質問です。前回はバダの負傷もあって、消化不良な結果に終わってしまいました。この試合に影響していることは何かありますか?

リコ「影響とは?結果は俺にはどうしようもないことだからね。俺はただリングの中では全力を尽くすだけだ。どちらにしろ、12月21日に起こるのは、彼が辞めないといけなくなるか、ノックアウトされてしまうか、のどちらかさ」

バダ「この瞬間を待ってたぜ(笑)。おとといきやがれ。俺がノックアウトしてやるさ」

(場内歓声)

リコ「本当か?やってみろよろ。前は自分がミスしたとかほざいてただろ?あれ、オランダ語で話し始めたのか?英語が喋れないからオランダ語にするのか?」

(場内ブーイング&「バダ」コール)

リコ「これの肝を教えてやろうか?お前はバダ軍団が必要なのさ。俺は自分だけの一人軍団さ。俺は大概のことは一人でできる。パパに頼んで、12月21日の試合を忘れないようにしておけよ。そして今回は試合を投げるんじゃないぜ」

(場内ブーイング)

Q. ゼラズニクCEOへの質問です。ジャマール・ベン・サディック(モロッコ)はタイトル挑戦を約束されていましたが、現在の状況は?

ゼラズニク「まず、そうした試合が約束されたことは無く、不正確な情報だ。ただ、ジャマールはトーナメントで優勝し、相応しい位置にはいる。ジャマールは相応しいタイミングでビッグマッチを戦うことを期待している」

Q. 両選手に聞きます。試合は何ラウンドで終わらせるつもりですか?

リコ「前回は2Rしか必要なかったからね。ファンのためには最低4Rは欲しいところだ」

バダ「彼に幸あれ。4R欲しいんだろ?」

Q. 両選手に聞きます。前回の試合から3年経ちました。実際こうやってお互いに会って、お互いを目の当たりにして、何か思うところはありますか?

バダ「サングラスしてるから良く見えないな(笑)。これは俺が3年間待ち望んだ試合だ。前回は俺が腕を怪我して、そして試合が終わった。これは厳しい負け方だった。特にこの手のビッグマッチには相応しくなかった。この試合はおそらく、俺のキャリアの中で最大のビッグマッチの一つだろう。この試合で単に勝ちたいだけではなく、俺は歴史を築きたいし、永遠の栄光を求めている。だからこそ、キャリア最大の一戦ということなんだ。

 負けを受け入れることは簡単でなかったし、彼に再会するまでに3年もかかっている。前回の試合までは、リコのことを知っている人なんてそんなにいなかったのはご存知だろう。バダ・ハリの波がやって来て、彼はそれに飛び乗ったから有名になれたんだ。たくさんショーをやって金ももらって。祝福するよ。でも3年経ち、それも終わる時が来た。12月21日に化けの皮を剥がしてやるさ。彼の本当のファイトレベルをみんなに教えてあげよう。そんなに大したものではないから。彼の前回の対戦相手を見ただろ?頼むぜ。あれ冗談だろ」

リコ「お前のヘスディ(・ゲルゲス)との試合だって似たようなもんだろ?あれも冗談だよな?」

バダ「お前は腕を痛めたヘスディを倒せなかっただろう?俺は彼を倒しているからな。俺は本来ライトヘビー級だったんだぜ?なんでお前が倒せなくて俺が倒せるんだ?お前喋りすぎなんだよ。12月21日だ。12月21日だ。聞けよ兄弟!12月21日だ!」

(バダは机を叩き付けてオランダ語でエキサイト。互いの言葉を遮りながら舌戦を続ける)

リコ「英語で喋れよ。みんなに分かるように」

バダ「お前は役者だ。お前をぶちのめしてやる、クソ野郎」

Q. リコに質問です。あなたがバダの戦績に疑惑を抱いているという報道がありました(ジョー・ローガンのポッドキャストのこと)。見つけることができない試合がたくさんあると。まだ疑いを持っていますか?

リコ「その通りだよ。(戦績は)でっち上げだと思う。まだ見つけられていないんだ」

(場内ブーイング)

バダ「俺も聞いたよ。おかしな話しさ。彼(リコ)はYouTubeとかソーシャルメディアもある時代に戦っているからだろうけれど、俺は実際にノックアウトした相手のことは覚えている。そこにカメラがいつもあったわけではない。俺はお前が見つけられなかった試合以上の数のノックアウトをしてきた。ひとまず見つけられないノックアウトのことは置いておけ。お前が見つけられるノックアウトだけ見ていればいいじゃないか。事実は事実。ジョークはジョークなんだ。区別しろよ」

Q. ゼラズニクCEOに聞きます。タイトルマッチでなくワンマッチなのはなぜか?

ゼラズニク「前回の戦いから矛盾無く一貫していきたい。それが理由だ。ただ、試合は5Rで行う。我々はこのように決断した。そこにはさまざまな精査もあった。現時点では前回の戦いを踏襲することになる」

Q. リコへの質問です。前回の試合について、1Rはどのような感触を得ていましたか?

リコ「1Rは様子見だった。彼のリーチとかスピードとかね。1分30秒ほどで距離感は掴めた。彼はジャブを打ってきたが、特にストレスは感じなかった。2Rにはもっと圧力を強めたかったんだが、彼がギブアップしてしまった」

Q. その結果をUnfinished Business(未完の仕事)だと思っていますか?

リコ「その通りだ。だから終わらせたい」

Q. その思いをこの3年間抱き続けてきたのですか?

リコ「常にというわけではない。ただ、この試合が来ることは願ってきた。ファンだけではなく、俺たち2人のためにも。俺たちだって(あの結末に)満足していないさ。素晴らしい結末を期待している」

Q. バダにも同じ質問です。前回の試合について、1Rはそのような感触を得ていましたか?

バダ「1Rは特に気にしていることは無かった。21日はすべてが異なるだろう。あの試合は過去のことだ。あの試合で自分が良かったか悪かったかはどうでもいい。とにかく、12月21日はすべてが異なるだろう」

Q. 両選手への質問です。準備段階で前回と異なることは何かありますか?

バダ 「最も異なるのは自分のマインドセットだ。多くの人が知っているように、あの時の俺はもう一人のジャッジとも戦っていた(笑)。多くのことと戦っている最中だった。プロのアスリートであれば、100%集中力を発揮したいとおもうはずだ。このようなビッグマッチなら尚更そうだろう。90%や95%ではなく100%が必要なんだ。でもあの時の俺はそうじゃなかった。起きてしまったことは起きてしまったことだ。もう忘れたよ。今は12月21日を楽しみにしている。マインドセットも違うし、ジムにも毎日行っているし、モロッコの山を走ったりもしている。準備はできている」

リコ「前回と違うところは特に無いね。年間を通じてどのようにトレーニングするか、どうすれば良い状態を保てるか、を考えている。それが機能しているから自分は試合の準備ができている。毎試合で変わってくるのは対戦相手と戦略だ。前回は大きなバダと戦ったが、今回は小さなバダと戦うからね」

バダ「お前が戦うのは危険なバダだ。危険だぜ。12月21日だ」

リコ「日付は分かってるから黙ってろ。とにかく、質問の答えは戦略が変わってくるということだ」

Q. バダに質問です。もし勝ったとして何か期待していることはありますか?

バダ「君は何かあるのかい?GLORYとは今回、6試合の契約を結んだ。これは6試合のうちの1試合だ。期待していることはこれだろう。ノックアウト量産だ。もちろん、タイトルにも興味がある。その時に誰が持っているかは分からないが、もしリコなら『COLLISION 3』になるだろう」

Q. リコに質問です。もし負けたとすれば、あなたはどうしますか?

バダ「いい質問だね(笑)」

リコ「まず負けないよ。クレイジーなミラクルがバダに起こって、俺が負けたとすれば、ベルトは彼のものだ。負けたらもはやチャンピオンではないということだ。だけどそんなことは起きない。俺がまだチャンピオンさ。俺は6年間、チャンピオンであり続けてきたんだ」

Q. バダに質問です。現在のトレーナーは?

バダ「それは愚かな質問だ。今も変わらずマイク(Mike’s Gymのマイク・パッセニール会長)だ」

リコ「また変えたのか?マジかよ?怖くなったんだろ?今こそバダ軍団が必要だな」

(場内歓声)

バダ「お前はバダ軍団に感謝しろよ。人気が無いお前のためにチケットを買ってるようなもんだからな」

リコ「またあいつらをリングサイドに集めるのか?」

Q. リコの発言も受けて改めてゼラズニクCEOに聞きます。どうしてタイトルマッチではなくワンマッチなのですか?

ゼラズニク「議論は続けている。タイトルマッチの契約に関してクリアーしないといけない課題もある。そういうこともあって今回はタイトルマッチではない。この点についてはこれからも議論していく。ただ、良い知らせはこの試合がタイトルマッチと同じように5Rということだ。もし今後の展開があれば、改めて伝えることになるだろう」