15戦全勝のヴィダレス(右)が試金石の一戦。
元王者アダムチャックと拳を交える 
Photos(C)GLORY

 2019年11月22日(金・現地時間)アメリカ・イリノイ州シカゴのウィントラスト・アリーナで開催される『GLORY 71』、及び翌23日(土・同)同所で開催される『GLORY 72』のカードが続々と発表されている。ここでは2days興行2日目の『GLORY 72』で決まった注目カードを紹介したい。

 同大会のメインイベントはGLORY世界フェザー級タイトルマッチで、王者ペットパノムルン・キャットムーカオ(24=タイ)が同級3位アレクセイ・ウリアノフ(30=ロシア)の挑戦を受け、3度目の防衛戦を戦うのは既報の通り。

 新たに今後のフェザー級戦線を占う一戦として、無敗の新星エイブラハム・ヴィダレス(24=メキシコ)が元GLORY世界同級王者セルゲイ・アダムチャック(29=ウクライナ)に挑むワンマッチが組まれた。

 ヴィダレスはGLORYが未来の王者として期待を寄せる選手で、現在は同級9位にランクイン。通算戦績は15戦全勝(12KO・TKO)、GLORY戦績は4勝(3KO・TKO)で、これまでの対戦相手が戦歴相応の選手だったとはいえ、高いフィニッシュ力で結果を出し続けている。

 構えはオーソドックスで、武器は強力なパンチとコンビネーション。パンチは特に、顔面に集めてからの左右ボディが強烈で、顔面を狙う時も相手のブロックの外側と中央を巧く突く。単発のパンチだけでも倒せる力はあるが、多用するのはパンチから右ミドルもしくは右ローにバチッと繋げる攻めだ。

 仕掛ける時はワンパターンにならず、上中下左右のどこでも起点にすることができ、連打を散らしたかと思えば一カ所に集めてきたりと変化をつける。最近は飛びヒザ蹴りや後ろ蹴りも使い、対戦相手からすれば読みづらいうえに意表を突かれることもあるという、さらに嫌な選手に仕上がってきているようだ。フェザー級の中では182センチと長身なのも特徴で、アダムチャックを8センチ上回る。

 GLORY初参戦は昨年11月の『GLORY 61: New York』で、対戦相手はフサム・エルカスリ(モロッコ)。この試合でヴィダレスは序盤から左ジャブや左フックを見せて右ミドルを蹴る対角線の攻撃を徹底し、エルカスリが脇腹を気にし始めたところで顔面に左フックを叩き込み、戦闘不能へと追い込んだ。結果は1R1分48秒KO勝ち。

 3連勝で臨んだGLORY4戦目は今年9月の『GLORY 68: Miami』で、対戦相手はムエタイも含めて70戦以上のキャリアを持つベテランのジャスティン・グレスカウィッツ(アメリカ)。ヴィダレスは序盤からパンチと右ローで攻め、1Rに1度目のダウンを右ボディで、2度目を左右ボディで取り、2Rには3度目をワンツーで、そして3Rに4度目を左右ボディからの顔面ヒザ蹴りで追加し、計4度のダウン奪取でTKO勝ちを決めた。

 まさにヴィダレスの独壇場とも言える圧勝劇だったが、試合後の勝利者インタビューで今後の目標を尋ねられると、すぐにタイトルマッチをアピールすることもなく、「ランクを徐々に上げながら無敗を守ること」と答える堅実さも印象的だった。

 余談になるかもしれないが、ヴィダレスはメキシコのストリートから這い上がるために格闘技を始め…的なストーリーとは無縁の裕福な家庭の生まれで、子どもの頃から格闘技も含めたさまざまな習い事に触れて育ち、大学では歯学を専攻して、ゆくゆくはその道に進むというキャリアを描いているそうだ。ちなみに大学はこのほど無事に卒業し、現在は歯科医院で働きながら主に朝と夜の時間をトレーニングに充てているという。

 そのヴィダレスを迎え撃つアダムチャックはGLORY参戦当初からフェザー級のタイトル戦線に絡む活躍を続けており、現在も同級2位にランクインするトップ選手。日本でもお馴染みのマイク・パッセニール会長率いるMike’s Gymに所属する。2009年から4年近くプロの総合格闘家として活動しており、キックボクサーのキャリアを本格的にスタートさせたのはそれからだ。

力強くパンチを振るうアダムチャック

 サンボ出身の元総合格闘家だけあって、体は頑丈で攻撃もパワフル。構えはサウスポーで、左の蹴りを得意としており、奥足を狙う左ローが強烈だ。パンチも鋭く、右ジャブと左ストレートを上下に打ち分けながら、ワンツーではやや変則的な軌道でアッパー気味の右ストレートを振り抜く。また、相手の前進や踏み込みに合わせるカウンターのヒザ蹴りや、接近戦でガチャガチャさせながら突き上げるヒザ蹴りも手強い。

 GLORY初参戦は2015年6月の『GLORY 22: Lille』で、この時は適正階級よりも一つ重いライト級で、あのマラット・グレゴリアン(アルメニア)に判定勝ち。その1カ月後には新生K-1のリングに上がり、70キロ級の初代王座決定トーナメントのリザーブマッチで秋元和也に判定勝ちしたが、このトーナメントを全3試合KO勝ちで制したのがグレゴリアンだったというのも面白いところだ。

 続く同年11月の『GLORY 25: Milan』では本来のフェザー級に戻し、GLORY2戦目にして早くもタイトルマッチに臨む。ここで当時の王者ゲイブリエル・ヴァーガ(カナダ)に判定勝ちし、初戴冠を果たすこととなった。なお、同王座は2016年7月の『GLORY 32: Virginia』でヴァーガに判定負けでリベンジを許し、2度目の防衛戦で失っている。

 その後も戴冠は逃しているがGLORYで2度のタイトルマッチを経験。GLORY戦績は10勝(0KO・TKO)6敗で、トップ選手たちとの対戦が多い中、勝った試合も負けた試合も全て判定決着だった。通算戦績は38勝(14KO・TKO)11敗となっている。

 ヴィダレスにとってアダムチャックはこれまで拳を交えてきた相手たちとは異なり、キャリアと実績からみても間違いなく過去最強の相手。王者クラスの選手と渡り合えるか、ヴィダレスにとっては試金石の一戦となる。

 激戦区のフェザー級には、他にも同級1位ケビン・ヴァン・ノストランド(アメリカ)、同級4位ザカリア・ゾウガリー(モロッコ)、同級5位アンヴァー・ボイナザロフ(ウズベキスタン)、同級6位エイサー・テン・パウ(アメリカ)、同級7位トーン・フェアテックス(タイ)など、実力者がひしめく。

 今大会ではノーストランドvsボイナザロフの試合もメインカードで組まれており、ここでヴィダレスが存在を示せば、次期挑戦権争いはますます熾烈になってくるだろう。

Movie(C)GLORY
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