2019年10月26日(土・現地時間)フランス・リヨンのパレ・デ・スポール・デ・ジェルランで『GLORY 70: Lyon』が開催されました。以下に試合レポート・結果を綴ります(試合順は入れ替えています)。

Photos(C)James Law, Glory Sports International
※選手の国籍はGLORY公式HPの表記。

▼フェザー級 Featured Fight 3分3R
×アブデラ・エズビリ(33=フランス/同級6位)
KO 1R 2分25秒
○ザカリア・ゾウガリー(25=モロッコ/同級7位)

 ザカリアは“爆弾小僧”の異名を持つシュートボクサーとして活躍。2016年11月にS-cup 65キロ世界トーナメントで優勝し、2017年4月には海人からも判定勝ちを収めている。GLORY戦績は3勝(0KO・TKO)2敗。前戦は昨年9月の『GLORY 59: Amsterdam』で、次期タイトルコンテンダーのアレクセイ・ウリアノフ(ロシア)に判定負けしている。

 対するエズビリは2013年1月のKrush 67キロ初代王座決定トーナメントで準優勝。2017年11月には母国フランスで野扖正明から判定勝ちを収め、Nuit Des Champions 66キロ王座を獲得している。GLORY戦績は3勝(1KO・TKO)3敗。前戦は今年3月の『GLORY 64: Strasbourg』で、元タイトルコンテンダーのアンヴァー・ボイナザロフ(ウズベキスタン)に判定負けしている。

 アナウンスされた通算戦績は、ザカリアが31勝(15KO・TKO)5敗1分、エズビリが47勝(14KO・TKO)14敗1分だ。

 1R、構えは両者ともにオーソドックス。攻めはパンチ主体のザカリアに対し、エズビリは蹴り主体で、どちらも序盤から返す刀で斬りつけ合うような激しいコンタクトを繰り広げる。エズビリは首相撲にとらえる動きから、ザカリアが振りほどいたところで右ミドル。直後にザカリアが二段飛びヒザ蹴りから着地と同時に放った右フックで、エズビリの頭を揺らす。

 パンチが走り始めたザカリアは左右フックを腹から顔面へと素早く打ち分け、一瞬間を置いて左右ボディストレートも追加。エズビリも右ローと右ミドルを蹴るが、距離が合わない場面も多い。ザカリアがバックハンドブロー強襲を狙うもこれは空振り。エズビリはすぐさま同じ技を返し、そのまま一気に間合いを詰めて右ミドルをヒットさせる。コーナーを背負うザカリア。エズビリはホームの歓声を背にパンチをまとめる。

 しかし、ここでザカリアはエズビリを挑発するかのようにしばしの間、ウィービングやダッキングをしてみせ、パンチを喰らわうことなく脱出。そして、直後にザカリアが左右フックの高速回転で仕掛け、これに応じたエズビリを二段飛びヒザ蹴りからの左右フックでぶっ倒してみせた。

 エズビリは両足がそろった状態のままロープ際で倒れ込み、なんとか起き上がろうとするも足が言うことを聞かない。レフェリーがここで試合を止め、ザカリアのKO勝ちが決まった。

 1年ぶりの再起戦を“爆弾小僧”らしく飾ったザカリアは、「タフなトレーニングキャンプだった。家族、コーチ、トレーナーに感謝したい。ほっとしているよ。1RでKO勝ちすることはファイターにとって最高の喜びだ」と第一声。アウェイの観客からも大きな拍手が起こる。

 続けて、ザカリアは「みんな見てくれたと思うけれど、1Rでお互い火が点いたんだ。自分のパンチが良いことは自分が一番分かっているよ。今となってはアブデラもそれを知ることになったね。彼はまだ戦えると言っていたけれど、もう終わりだった」と試合を振り返り、「今日の強さを見てくれただろう?ここのところコンディションもすごく良い。またすぐにジムに戻ってトレーニングに励みたい。目的は同じ。ベルトだ」と、頂点を目指すことを宣言した。

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▼メインイベント GLORY世界ウェルター級暫定王座決定戦 3分5R
○マーテル・グローエンハート(33=オランダ/同級3位)
KO 2R 2分38秒
×トロイ・ジョーンズ(31=アメリカ/同級4位)
※グローエンハートが暫定王座に就く。

鋭いパンチを振るうグローエンハート

 今大会では当初、GLORY世界ウェルター級王者セドリック・ドゥンベ(27=フランス)がグローエンハートの挑戦を受け、地元フランスで2度目の防衛戦を戦う予定であった。しかし、試合まであと12日というところでドゥンベの負傷欠場とジョーンズを代役出場が決まり、メインイベントは暫定王座戦へと変更されることになった(発表は大会9日前の10月17日)。

 グローエンハートは68勝(39KO・TKO)24敗3分の通算戦績を持つベテラン。2012年12月にはギリシャで開催されたK-1 World MAXトーナメントに出場し、城戸康裕、マイク・ザンビデス(ギリシャ)、アルトゥール・キシェンコ(ウクライナ)のそうそうたる顔ぶれからKO・TKO勝ちを収め、優勝した実績を持つ。GLORYでも2017年8月の『GLORY 44: Chicago』でドゥンベに判定勝ちし、世界ウェルター級王座のベルトを一度巻いている。

 対するジョーンズは13勝(11KO・TKO)1敗の通算戦績を誇るホープ。昨年3月のGLORY初戦『GLORY 52: Los Angeles』から現在4戦全勝と絶好調だ。前戦は今年9月の『GLORY 68: Miami』で、初参戦のアマリ・ディエドリック(イギリス)からボディとヒザ蹴りで3度のダウンを奪い、圧巻の1R・TKO勝利を飾っている。その試合でノーダメージだったということもあり、今回は急遽のオファーを承諾し、中1カ月でタイトルマッチに臨むことになった。

 1R、構えは両者ともにオーソドックス。ジョーンズがリング中央からプレッシャーをかけ、左ジャブと右ローで先制。グローエンハートはロープに近い位置で構え、右ストレートから左インローを蹴って、そのまま左方向へ足を運ぶ。ジョーンズは左ジャブを突き、ワンツーの右ストレートをグローエンハートの腹に届かせる。

 1分ほど経過すると、グローエンハートが左ジャブや左フックをみせ、そこからすぐに右フック、そして左ローまで繋げる攻撃を開始。ジョーンズは慎重にディフェンスしながら右ローを返していく。終了間際にグローエンハートは飛びヒザ蹴りを狙うが、空振りして着地したところでジョンズの右フックを被弾して尻餅。レフェリーはダウンとみなさず、直後にゴングが鳴らされる。

 2R、グローエンハートの左ミドルをブロックしたジョーンズは、すぐに右ストレートと右ローを返す。ジョーンズは左ジャブからの右ローも鋭さを増す。グローエンハートは左右へ足を運んでいったん相手の射程距離から外れ、そこからワンツーや右オーバーハンドで一気に仕掛けるが、ジョーンズの左ジャブのカウンターが迎え撃ってくる。

 残り時間1分。互いにフェイントをかけ合いながら見合う場面が多くなり、観客からブーイングが飛び出す。しかし、ここで左ジャブから右の拳を構えたジョーンズに対し、グローエンハートが右ストレートで一太刀。意表を突かれたジョーンズがダウンする。ジョーンズは立ち上がるも表情がうつろ。グローエンハートはすぐに飛びヒザ蹴りを挟みながらのパンチのラッシュで、ジョーンズをマットに沈めた。

 グローエンハートがベテランらしく狙いすました一太刀で試合を決め、KO勝ちで暫定王座を獲得。試合後、マイクを向けられたグローエンハートは「ベルトはたくさん欲しいものさ。あと一本、絶対手に入れたいものがあってね。分かるだろう?」と、リングサイドに座る正規王者ドゥンンベの方に目を向ける。

 試合については、「ゲームプラン通りだった。1Rは相手(の動き)をしばし感じる時間だった。2Rは彼も前に出てきたから、プレデター(グローエンハートの異名)がそれに受けて立ったのさ」と振り返り、リプレイ映像を見ながら「(1度目のダウンシーンに)いいねえ。気に入ってくれただろう?(2度目のダウンシーンに)これがプレデターだ。血の匂いがすれば獲物を狩るんだ」とご満悦モード。

 そして、リングサイドから何やら叫ぶドゥンベの姿を見て、グローエンハートは「分かってるよな?次は王冠だ」と、ブーイングの中で宣戦布告した。


▼セミファイナル ミドル級 Featured Fight 3分3R
○ドノヴァン・ウィッサ(22=スリナム/同級2位)
判定5-0 ※29-28、29-28、30-27、30-27、30-27
×ジェイソン・ウィルニス(28=オランダ/同級5位)

観客の拍手を受けたウィッサのボディ打ち

 ウィッサは12勝(8KO・TKO)1敗の通算戦績を誇るGLORYミドル級のホープ。昨年12月のGLORY2戦目『GLORY 62: Rotterdam』でエルトゥグルール・バイラク(トルコ)に判定で敗れ、プロ初黒星を喫したが、その後は2連勝をあげており、前戦は『GLORY 65: Utrecht』で元タイトルコンテンダーのユースリー・ベルガロイ(チュニジア)に判定勝ちしている。

 対するウィルニスは2016年9月の『GLORY 33: New Jersey』で、当時のGLORY世界ミドル級王者サイモン・マーカス(カナダ)を3RTKOに下して初戴冠。2017年1月の『GLORY 37: Los Angeles』では現UFC世界ミドル級王者イズラエル・アデサニヤ(ナイジェリア)の挑戦を判定で退け、初防衛に成功している。同年4月の『GLORY 40: Copenhagen』でマーカスに判定負けし、リベンジを許すとともに王座陥落。以降も黒星先行ながらタイトル戦線に絡んでいる。通算戦績は31勝(9KO・TKO)9敗1分。

 1R、構えは両者ともにオーソドックス。ハイガードでジリジリと間合いを縮めるウィルニスに対し、ウィッサは左ジャブをテンポ良く突く。最初にウィルニスが鋭い右フックで仕掛け、ウィッサはこれを瞬時にかわして左ボディと右ロー。ウィルニスも返す刀で左インローを蹴る。一瞬の攻防だった。

 ウィッサは左ジャブから左右ロー、パンチ4連打の最後に右ボディ、ヒザ蹴りを突き上げて着地してすぐに左フックからの右ロー、右ストレートからの左ボディ、右アッパーからの左ボディに右ロー追加など、コンビネーションが多彩で速い。

 特にウィッサが終了間際にみせた、左右フックからの左ボディ、そして右ローへと流れるように繋げるコンビネーションは、観客が拍手を送るほど鮮やかだった。ただ、ウィルニスの強固なガードはまだこじ開けられていない。

 2R、ウィッサが早くも左ボディからの右ローで先制し、続けてワンツースリーの左アッパーから右ハイも追加。ウィルニスはなおもハイガードで間合いを図りつつ、徐々に左右ローとカウンターの左右フックを繰り出す頻度が高くなっている。しかし、ウィルニスは右ストレートをウィッサにかわされ、カウンターの左ボディを叩き込まれる場面も。ウィッサはさらに左右アッパー、左右ロー、右ハイなど攻撃を散らす。

 残り時間30秒に迫ったところで、細かくパンチをまとめようとしたウィッサに対し、ウィルニスの右ストレートとショートの左がヒット。ウィッサはガードを上げたまま、やや動きが止まる。ウィルニスもすぐにパンチをまとめるが、深追いはしない。残り時間わずがながらも、ウィッサが再びパンチの連打から右ローを蹴るコンビネーションをみせ、ウィルニスの反撃の芽を摘んだ。

 3R、開始早々にいきなりパンチの連打を繰り出すのはウィッサで、左右フック、右ストレート、左アッパーと、さまざまな角度から叩きつけていく。ウィルニスもブロッキングしつつワンツー、左ジャブからの右アッパーをコンパクトに返し、ウィッサの連打を寸断。すると、今度は右ローと右ハイも混ぜてウィッサが巧く攻撃を散らしていく。ウィルニスの左右フックと右アッパーもコンパクトでキレがある。

 見応えのある速くて強いコンビネーションの応酬が続くが、互いにガードが堅くダメージはうかがえない。ただ、しっかりと蹴りまで繋げるウィッサの方がバリエーションがより豊富で、手数も多い。ウィルニスがパンチを4連打、5連打とまとめれば、ウィッセも同じ数をリターンして右ローを追加。最後までハイレベルな攻防が続き、試合終了のゴングが鳴ると、再び観客から拍手が沸き起こった。

 ウィッサが隙のない圧巻のパフォーマンスをみせ、元王者を相手に満場一致の判定勝ち。試合後、ウィッサは「元王者だし、タフな相手だということは分かっていた。戦略はあったが、全てが巧くいった訳ではない。また次までに改善したい」と試合を振り返り、タイトル挑戦について聞かれると、「もちろん視野には入っているけど、我々はただ待つのみだよ」と謙虚に答えた。


▼フェザー級 SuperFight 3分3R
○トーン・フェアテックス(23=タイ/同級9位)
判定5-0 ※29-28、30-27、30-27、30-27、30-27
×久保政哉(26=日本)

トーンと久保(前日計量にて)

 久保はGLORYで唯一の日本人選手。サウスポーの構えから繰り出す左の蹴りを得意としており、2017年10月のGLORYデビュー戦『GLORY 46: Guangzhou』では、リー・チェンチェン(中国)を左ハイで1RKOし、ノックアウト・オブ・ザ・ナイトに選出された。しかし、その後は3連敗と苦しい状況だ。

 対するトーンは新鋭ながらフェザー級9位のランカー。構えは久保と同じくサウスポーで、ムエタイ仕込みの左の蹴りを得意としている。昨年10月のGLORYデビュー戦『GLORY 60: Lyon』から現在2連勝中。前戦は今年5月の『GLORY 65: Utrecht』で、実力者ベイリー・サグデン(イギリス)を判定で下している。

 アナウンスされた通算戦績はトーンが69勝(25KO・TKO)20敗3分、久保が17勝(5KO・TKO)11敗1分。情報が正しければ、トーンはこれがキックボクシング3戦目で、これまでの戦歴のほとんどがムエタイのものとなる。

 1R、構えは両者ともにサウスポー。トーンがさっそくムエタイの技を駆使。久保が左ミドルを蹴れば、トーンは右手で蹴り足をキャッチし、残った軸足に左ローを入れたり、左ストレートで顔面を狙ったりする。また、トーンはフェイントで久保に片ヒザを上げさせ、残った軸足を左ローで刈り飛ばす。トーンの左ハイと左ミドルは鋭いが、これは久保がブロックするか、かわすかで対処。

 攻撃に転じると、久保も右ジャブを細かく突く動きから、急に右フックに切り替えてトーンのガードの背後を狙ったり、そのまま一気に踏み込んで右フックを当てにいったり、変化をつけていく。久保は左ジャブから右ボディと左ミドル、ワンツースリーから左ミドルも繰り出す。しかし、終了間際にトーンの左カーフキック2連発が久保の動きを一瞬止める。

 2R、右ハイを空振りさせたトーンをプッシュしてロープを背負わせる久保。直後に両者のパンチが交錯する。久保がやや距離を取ったところで、トーンは強烈な左カーフキック。久保の体が一瞬傾く。なおも久保はジリジリと間合いを縮めてパンチで仕掛けようとするが、トーンはロープ際で待ち構えて左カーフキック、左ミドル、左ハイで迎え撃ち、クリンチも使って攻撃を寸断する。

 3R、リードを許している久保はさらに多く左ジャブを突き、そこから左ストレート、左とみせかけて右フック、左ボディストレートなどに繋げていくが、トーンはすぐにクリンチで潰す。そして次に久保が近づこうとすれば、トーンは左ミドルを飛ばし、前蹴りでのプッシュも混ぜて跳ね返す。トーンは自ら前に出るようにもなり、クリンチからのヒザ蹴り、両手でプッシュしてからの左ローで、巧く久保を削っていく。久保は攻めあぐねたまま試合終了を迎えた。

 ジャッジ1名が1ポイント差、残り4名が3ポイント差でトーンを支持。久保の攻撃を巧く寸断し、左ローも効果的だったトーンが満場一致の判定勝ちを収めた。トーンはこれでデビュー3連勝。一方、久保はGLORYで2年ぶりの勝利をあげることができず、白星デビューからの4連敗となった。

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▼ヘビー級 Superfight 3分3R
×キリル・コール二ロフ(ロシア/同級10位)
判定2-3 ※28-29、28-29、29-28、29-28、28-29
○ノーディーン・マハディーン(フランス)

▼ウェルター級 Superfight 3分3R
○マテイ・ペニャーズ(チェコ/同級9位)
TKO 2R 1分06秒
×ヤシン・アーガン(フランス)

▼ウェルター級 Superfight 3分3R
○ジェイミー・ベイツ(イギリス/同級8位)
判定5-0 ※29-27、29-27、29-27、30-26、30-26
×ヴェダット・ハドゥーク(トルコ)

▼フェザー級 Undercard 3分3R
○セドリック・ドウ(フランス)
TKO 2R 1分04秒
×メディ・カダ(フランス)

▼女子スーパーバンタム級 Undercard 3分3R
○アネール・アンガーヴィル(フランス)
判定5-0 ※29-28、30-27、30-27、30-27、30-27
×マリア・ロボ(ポルトガル)

▼ウェルター級 Undercard 3分3R
×ヨアン・マムー(フランス)
判定0-5 ※27-29、27-29、26-30、26-30、26-30
○サイード・アマダ(フランス)