2019年11月23日(土・現地時間)アメリカ・イリノイ州シカゴのウィントラスト・アリーナで『GLORY 72: Chicago』が開催されました。以下に試合レポート・結果を綴ります(※試合順は入れ替えています)。

Photos(C)GLORY

Superfight Series Headline Event
▼フェザー級 3分3R
○セルゲイ・アダムチャック(29=ウクライナ/同級2位)
TKO 3R 1分27秒
×エイブラハム・ヴィダレス(25=メキシコ/同級9位)

左ハイを叩き込むアダムチャック

 アダムチャックは元GLORY世界フェザー級王者。2015年6月の『GLORY 22: Lille』では、適正階級よりも一つ重いライト級でのGLORY初参戦ながら、あのマラット・グレゴリアン(アルメニア)に判定勝ちしている。現在もフェザー級のタイトルコンテンダーとして活躍中だ。通算戦績は38勝11敗(14KO・TKO)、GLORY戦績は10勝6敗(0KO・TKO)。GLORYでは全試合が判定決着となっている。

 対するヴィダレスはGLORYが未来の王者として期待を寄せる新星で、通算戦績が15戦全勝(12KO・TKO)、GLORY戦績が4勝(3KO・TKO)と未だ無敗。これまでの対戦相手が戦歴相応の選手だったとはいえ、高いフィニッシュ力で結果を出し続けている。上位ランカーと拳を交えるのはこれが初めて。しかも元王者が相手という試金石の一戦だ。

 1R、構えはアダムチャックがサウスポー、ヴィダレスがオーソドックス。ヴィダレスは左ジャブや細かいパンチの連打から右ミドルと右ローを蹴る。アダムチャックはブロックしながら間合いを詰め、パンチのコンビネーションを振るう。 バチバチと快音を鳴らすヴィダレスの蹴り。アダムチャックは相手のガード外側を左右フックで叩き、右ボディと左ローも強烈だ。ヴィダレスは徐々にクリンチの場面が増える。

 2R、ジャブでの触り合いからヴィダレスが右ミドル、アダムチャックが左ロー。距離が詰まればヴィダレスがクリンチからのヒザ蹴り、アダムチャックの離れ際には右ミドル、そして飛びヒザ蹴りも追加せんとする。だが、アダムチャックのディフェンスは堅い。時間の経過につれ、アダムチャック得意の奥足への左ローもヴィダレスの悩みの種に。ヴィダレスは手数こそ落とさないが、終盤にはアダムチャックに左ハイを叩き込まれてしまう。

 3R、これまでと同様の展開が続く中、アダムチャックが右ジャブを細かく突いて前進。ヴィダレスは前蹴りと右ミドルで寄せつけまいとするが、徐々にロープ際まで後退していく。するとここで右ストレートを打ったヴィダレスに対し、アダムチャックが左にヘッドスリップしてからの左フックをヒット。ヴィダレスが大きくぐらつく。

 一気に追撃のパンチをまとめるアダムチャック。ヴィダレスはクリンチに逃れようとするも、足が言うことを聞かず前のめりに倒れ込んでしまう。無敗の新星がついにダウン。ヴィダレスはゆっくりと立ち上がってファイティングポーズを取るが、レフェリーの問いかけに反応できていないか、ここで続行不能と判断され試合終了となった。

 アダムチャックが元王者の洗礼を浴びせるかたちでTKO勝ち。ここまで快進撃を続けてきたヴィダレスはプロ16戦目にして初黒星を喫することとなった。また、アダムチャックはGLORY17戦目で初めて判定以外のかたちで試合を決着させている。


Headline Event
▼GLORY世界フェザー級タイトルマッチ 3分5R
△ペットパノムルン・キャットムーカオ(24=タイ/王者)
判定1-0(マジョリティー・ドロー) ※49-46、47-47、47-47
△ケビン・ヴァン・ノストランド(32=アメリカ/同級1位/挑戦者)
※ペットパノムルンが3度目の防衛に成功。

顔面前蹴りを合わせるペットパノムルン

 GLORY世界フェザー級王者ペットパノムルンの3度目の防衛戦。当初予定された挑戦者アレクセイ・ウリアノフ(ロシア/同級3位)が欠場したため、代わりにヴァン・ノストランドがペットパノムルンに挑む。

 両者は今回が2度目の対戦。初対決は昨年7月の『GLORY 55: New York』で、この時はペットパノムルンが判定勝ちで暫定王座を獲得している。

 ペットパノムルンはその2カ月後の『GLORY 59: Amsterdam』で、当時の正規王者ロビン・ヴァン・ロスマレン(オランダ)に判定勝ちし、王座統一に成功。その後はセルゲイ・アダムチャック(ウクライナ)とアンヴァー・ボイナザロフ(ウズベキスタン)の挑戦を判定で退けている。

 一方、ヴァン・ノストランドは代役と言えどもトップランカーで、むしろウリアノフよりも手強い相手。ペットパノムルンに敗れてからもマサロ・グランダー(南マルク)とセルゲイ・アダムチャック(ウクライナ)に判定勝ちしている。

 1R、構えは両者ともにサウスポー。ヴァン・ノストランドが開始早々にワンツーからのヒザ蹴り連打。ペットパノムルンはロープ際で回り込むも、ヴァン・ノストランドの右フックをもらって後退する。ヴァン・ノストランドはパンチとヒザ蹴りで追撃。ペットパノムルンはクリンチに逃れる。

 勢いづいたヴァン・ノストランドは変則的なステップでリング内を縦横無尽に動き回るが、パンチの交錯からペットパノムルンのクリンチにつかまると、その離れ際に右フックを被弾する場面も。ヴァン・ノストランドがパンチからのヒザ蹴り、ペットパノムルンが右フックのカウンターと左右の蹴り。両者が何度も交錯して荒々しくもつれ合い、激しい3分間での開戦となった。

 2R、ヴァン・ノストランドの飛び込み際に巧く右ミドルを合わせ始めたペットパノムルン。ヴァン・ノストランドは構わずパンチとヒザ蹴りで仕掛け、クリンチにつかまっても一瞬スペースができるのを逃さずペットパノムルンの顔面に拳をぶつける。

 しかし時間が経つにつれ、ペットパノムルンが距離を潰される前に右ミドルを叩き込み、左ハイもヴァン・ノストランドの側頭部紙一重の位置まで飛ばす。ヴァン・ノストランドは鼻から流血。クリンチの展開でもペットパノムルンはブレイクぎりぎりのところでヒザ蹴りを突き上げるなど老獪だ。

 3R、ヴァン・ノストランドも負けじとクリンチの駆け引きに出て、ブレイク待ちとみせかけてからの左右フック連打。ここはペットパノムルンがクリンチに逃れる。今度はペットパノムルンの右ミドルに右ジャブを合わせていくヴァン・ノストランド。

 ペットパノムルンはクリンチにとらえてヒザ蹴りを入れていく。ヴァン・ノストランドも歯を食いしばりながらパンチとヒザ蹴りで応戦するが、ゴング直後に「掴むのを止めろ!」とペットパノムルンに向けて叫ぶなど苛立ちを隠せない。

 4R、ペットパノムルンは構わずクリンチを駆使し、ヴァン・ノストランドが嫌がって強引に引きはがしたところで左フックや左ローをヒットさせる。苛立つヴァン・ノストランドにペットパノムルンはニヤリと笑み。

 なんとかパンチを当てたいヴァン・ノストランドは正面突破を試みるが、ペットパノムルンのダブルの前蹴りを腹と顔面に喰らい、直後に左カーフキックで体も反転してしまう。ペットパノムルンは再度クリンチから突き放しての左ローと左ミドルを叩き込む。

 5R、逃げ切り体勢に入ったペットパノムルンは前蹴り、右ミドル、左ローで突き放し、ヴァン・ノストランドが間合いを潰せばクリンチ。ヴァン・ノストランドも最後の力を振り絞ってパンチをまとめる。終了間際にペットパノムルンはホールディングの反則により減点を受けた。

 勝敗の結果は判定1-0でペットパノムルンがマジョリティー・ドローによる王座防衛。スコアはジャッジ1名が3ポイント差をつけたが、残り2名は同点としている。

 ペットパノムルンは満足げな笑みを浮かべ、英語でコメントを求められると「I love Chicago」と恥ずかしそうに挨拶。一方、ヴァン・ノストランドは「ハグが多い試合だった。GLORYはハグを許可してないはずだ。必要なのは攻撃に繋がるクリンチだが、彼は何もアクションを起こしていなかった。今日は祖母の誕生日だからベルトを持って帰りたかったんだ」と不満を口にし、早めの再戦を懇願した。


Featured Fight
▼女子スーパーバンタム級 3分3R
○ジェイディー・メネゼス(27=ブラジル/同級4位)
TKO 3R 1分57秒
×チョンマニー・ソー・テヒラン(24=タイ)

右フックを被弾するチョンマニー

 メネゼスはアニッサ・メクセン(フランス)と3度拳を交えて1勝2敗。一度はGLORY世界女子スーパーバンタム級王座を奪取している。前戦は今年9月の『GLORY 68: Miami』で、ティファニー・ヴァン・スースト(アメリカ)に判定負け。GLORY戦績1勝3敗(0KO・TKO)とはいえ、相手はGLORY女子のトップ2だった。

 対するチョンマニーはムエタイの実力者で、2014年にタイで開催されたWMA(World Muay Thai Angels)トーナメントで優勝した実績を持つ。GLORY戦績は1勝2敗(0KO・TKO)。

 1R、チョンマニーが間合いを調整しながら左右ミドルとテンカオを当て、メネゼスの強力なパンチにはたびたびホールディングの注意を受けながらもクリンチで対応。チョンマニーの左ミドルの炸裂音には観客もどよめく。

 しかし、これに構わず左右フックを振るいながら前に出るのがメネゼスのスタイル。時間の経過とともにメネゼスの右オーバーハンドがチョンマニーの顔面に届き始める。

 2R、チョンマニーは左ミドルを蹴ってはクリンチに出て、メネゼスとのパンチの攻防を回避。レフェリーからホールディングの注意が再三与えられる。メネゼスがパンチに加えて至近距離からの左右ロー、チョンマニーのクリンチを受けるとヒザ蹴り合戦にもつき合う。

 3R、チョンマニーは下がりながら左右ミドルを飛ばし、左ハイをヒットさせるが表情からは疲れの色。メネゼスはチョンマニーのクリンチでもつれ合いになりながらもがガシガシとパンチで削る。

 コーナーに詰まるチョンマニー。メネゼスが左右フックと左ボディを叩き込むと、チョンマニーは背を向けながら座り込んでついにダウンする。チョンマニーは鼻血を流し、腹にもダメージを受けたようで、そのまま立ち上がることができなかった。

 メネゼスが再起を果たすとともにGLORYで2つ目の白星を獲得。チョンマニーは左右ミドルで有効打を重ねるも、最後のところで勝利を逃した。


Co-Headline Event
▼ライトヘビー級 3分3R
×クリス・カモージ(33=アメリカ/同級9位)
延長判定1-2 ※9-10、10-9、9-10
○ライオット・ウォーラー(37=アメリカ)
※本戦は判定1-1(29-28、28-29、28-28)。

飛び上がってのパンチを当てるウォーラー。

 総合格闘家2人のキックボクシングマッチ。本職のキャリアでは通算戦績が2勝4敗(1KO・TKO/1SUB)のウォーラーに対し、カモージは24勝14敗(8KO・TKO/6SUB)と圧倒的に勝り、しかもこのうち19戦はUFCでの試合だ。キックボクシングの通算戦績はウォーラーが1勝1敗(1KO・TKO)、カモージが3勝1敗(2KO・TKO)となる。

 1R、カモージは左インローを蹴ったところでウォーラーの右ジャブ、左ストレート、右ハイを連続で喰らい早くも棒立ち。レフェリーが割って入りスタンディングダウンの宣告かと思いきや、そのまま試合を再開する。ロープを背負ったままフリーズして動かないカモージ。ウォーラーはすぐに追撃に向かうが、レフェリーに制止される。

 しかしなんと、レフェリーはここもダウンを取らず、カモージの様子を確認して試合を再開。カモージは目の焦点が合っておらず、腰が落ちてロープにもたれかかって立っているのがやっとという状態だったのだが。さらに不運なことにウォーラーはフィニッシュのチャンスを潰されただけでなく、終盤にカモージの左ストレートでよろめいてしまう。

 2R、カモージは序盤に左右カーフキックを蹴るが、ウォーラーの右ストレートをもらうとパンチから飛び込むMMA的な動きに変化。ウォーラーはなおもスーパーマンパンチのような動きで左右ストレートを伸ばし、カモージの頭が下がったところではヒザ蹴りも突き上げる。

 3R、ウォーラーが右ミドルからのバックハンドブロー。カモージはウォーラーの首相撲につかまりながらも左右フックをガシガシとぶつけ、右アッパーをヒットさせる。ウォーラーはスタミナが切れてきた様子。カモージは左右フックと左ストレートを当てて追い上げをみせた。

 試合は9分間で決着がつかず、判定1-1で延長戦に突入。ウォーラーが開始直後にパンチの連打、ヒザ蹴り、右ミドルで仕掛け、カモージをぐらつかせる。それでもタフなカモージは盛り返して左右フックと左右ローで反撃。ウォーラーは後半にがくんと手数が落ちたがなんとか逃げ切り、判定2-1で競り勝った。

 試合後、ウォーラーは「選手をリスペクトしてほしい」とジャッジに苦言を呈した。


Featured Fight
▼フェザー級 3分3R
○ベイリー・サグデン(イングランド)
TKO 1R 1分57秒
×ジョン・モアハウス(アメリカ)

狂拳ぶりをみせたサグデン

 サグデンはジャン・チェンロン(中国)に判定勝ちしたこともある実力者。直近の2試合はトーン・フェアテックス(タイ)とエイサー・テン・パウ(アメリカ)に判定で競り負けている。対するモアハウスはこれが2戦2敗で迎えるGLORY3戦目だ。

 勝負は1Rで決着した。183センチのモアハウスに対し、172センチのサグデンが序盤からパンチをまとめ、1分過ぎには左右フックでダウンを先取。立ち上がってもすでにふらふらの状態のモアハウスはサグデンのサンドバッグと化し、レフェリーストップとなった。

 サグデンは相手に何もさせずにTKO勝ち。敗れたモアハウスはこれでグローブを置くことを宣言した。モアハウスの生涯戦績は10勝10敗。


Super Fight
▼ウェルター級 3分3R
○チャールズ・ロドリゲス(アメリカ)
TKO 1R 2分59秒
×テイラー・クロール(アメリカ)

Super Fight
▼フェザー級 3分3R
×ジャスティン・グレスカウィッツ(アメリカ)
判定0-3 ※26-30、26-30、26-30
○ネイサン・ワード(アメリカ)

Super Fight
▼ミドル級 3分3R
×デレク・ローファー(アメリカ)
KO 2R 2分09秒
○ジョー・テイラー(アメリカ)

Super Fight
▼ヘビー級 3分3R
×トム・マトロン(アメリカ)
KO 1R 10秒
○ジョン・キング(アメリカ)

Undercard
▼フェザー級 3分3R
×ベン・アコスタ(アメリカ)
判定1-2 ※28-29、27-30、29-28
○カナット・タッシーベイ(アメリカ)