リコ・ヴァーホーベンとの3年ぶりの再戦に臨んだバダ・ハリ。大観衆が見守る中、バダは絶対王者を相手に2度のダウンを奪ったが、またしても負傷に見舞われ、悔し涙を流すこととなった

 2019年12月21日(土・現地時間)オランダ・ヘルダーラント州アルンヘムのヘルレドームで『GLORY: COLLISION 2』及び『GLORY 74: Arnhem』が開催されました。ここでは全試合結果と共に『GLORY: COLLISION 2』の試合レポートを綴ります。

Photos(C)GLORY Sports International

GLORY: COLLISION 2

Main Event
▼GLORY世界ヘビー級タイトルマッチ 3分5R
○リコ・ヴァーホーベン(30=オランダ/王者/118.2kg)
TKO 3R 59秒 ※バダが足を負傷
×バダ・ハリ(35=モロッコ/挑戦者/108.9kg)
※リコが9度目の防衛に成功。

リコをダウンさせたバダの右カウンター

 K-1レジェンドのバダとGLORY絶対王者のリコ。欧州キックボクシング界きってのビッグネーム2人が、3年の時を経てついに本拠地オランダで再戦を果たした。

 両者の初対決は2016年12月。舞台はドイツ・オーバーハウゼンで開催された『GLORY 36: Oberhausen』だった。この時はバダが試合中に肩を痛め、2R1分22秒TKO負けとなっている。今回はベルトを懸けての再戦だ。

 先に入場したバダは花道を歩きながら勇ましい表情で観客を煽り、リング手前で足を止めて感慨深げに満員の会場を見渡す。一方、リコはブーイングと歓声が入り交じる中で姿を現すと、入場曲の山場に合わせての咆哮から一気に花道をダッシュしてリングインした。

 会場の盛り上がりは最高潮。大成敦レフェリーが試合を裁く。

 1R、構えは両者共にオーソドックス。右ローでスタートしたバダに対し、パンチの連打を返すリコ。いったん距離を取り直すと、今度はバダが左ボディ、右フック、右ボディストレートを丁寧に当てていき、リコは左ジャブからの右ローで足を崩しにかかる。

 衝撃が訪れたのは1分20秒過ぎ。リコはパンチで仕掛けところでバダの右ショートフックをカウンターでもろに喰らい、片膝ががくんと落ちる。バダが絶対王者から先制のダウンを取った瞬間だった。

 すぐに立ち上がってファイティングポーズを見せるリコ。割れんばかりの歓声の中、バダは左右フックで追撃に入るが、リコも守り一辺倒にならず、左ジャブと三日月蹴りで応戦する。バダは攻め急がず、ガードも意識しながら右ローと右ハイを蹴った。 

 2R、巻き返しを図りたいリコはダブルの左ジャブから右ストレートをヒット。バダは腰が一瞬落ちるが、すぐに左右フックでリコの追撃を寸断する。両者の譲らぬ姿に観客が再び沸く。

 徐々に反撃に転じ始めたリコは左右ミドルと三日月蹴り。バダの右の拳も変わらずの凄みと威力だが、至近距離ではリコの右アッパーと左ボディがよく決まる。リコの左右インローもバダの悩みの種だ。

 3R、開始早々にまたも衝撃。左ジャブと前蹴りで突き放さんするリコに対し、バダが右ボディからの左ハイを見事に炸裂させ、2度目のダウンを取る。今度はリコの両膝が完全にマットに着いていた。

 リコは立ち上がるも表情はうつろ。試合が再開されるとバダは左ジャブで圧力をかけ、リコがロープを背負ったところで上段後ろ回し蹴りを繰り出す。しかしこれを空振りさせて転倒したバダは苦悶の表情となり、そのまま立ち上がることができなくなってしまう。

 大攻勢から一転、バダはまさかの負傷で続行不能となった。

 衝撃からの衝撃に会場は騒然。バダは左足首にアイシングを施されながら悔し涙を流し、リコは何とも言えない表情を浮かべながらその様子を側で見守る。

 試合時間は3R59秒。結果として窮地に追い込まれたリコがバダの負傷というかたちでTKO勝利を掴み、9度目の王座防衛に成功した。

 バダは両肩を支えられながらなんとか立ち上がると、歩み寄ってきたリコと笑顔で抱擁を交わし敬意を示す。二大巨星の再戦はこれにて閉幕となった。

 自力で歩くことができないバダはストレッチャーに乗せられてリングを下り、観客からの拍手に謝罪のポーズで応える。だが、直後に再び悔しさがこみ上げてきたのか、バダは自らの顔を両手で覆い、涙を流しながら花道を後にした。

 一方、リングに残されたリコは下唇を噛みしめながら勝利者コールを受け、マイクと向けられると「まさに2つの感情がある。2度驚かされた。自分に対してとてもとても失望している。同時にゲームプランが上手くいっていたところもあるんだ。試合中も快適だったし、気持ち的には過去最高と言っても良い状態だった。だからこそのミスでもある」と複雑な心境を言葉にする。

 そこから冗舌に長めのスピーチを繰り広げたリコだが、その口調からは少々やけくそ気味の感情もうかがえ、リングアナからの「バダ・ハリとの『Unfinished Business(未完の仕事)』は完結したのか?」との問いにも、「絶対にノーだ」と即答していた。

 2人のストーリーはまだ続くのかもしれない。


Featured Fight
▼フェザー級 3分3R
○ザカリア・ゾウガリー(25=モロッコ/同級4位)
判定5-0 ※30-27、30-27、30-27、30-27、30-27
×エイサー・テン・パウ(30=アメリカ/同級6位)

ザカリアがテン・パウをコーナーに追い込んでの飛びヒザ蹴り

 ザカリアは2014年から2017年にかけて日本でシュートボクサーとキックボクサーとして活躍。現在はGLORYを主戦場としており、1年ぶりの復帰戦となった今年10月の『GLORY 70: Lyon』では、野扖正明に判定勝ちしたことがある強豪アブデラ・エズビリ(フランス)を二段飛びヒザ蹴りからの左右フックで1RKOに下した。GLORY戦績は4勝2敗(1KO・TKO)。

 対するテン・パウはGLORYで現在までに6戦全勝(1KO・TKO)の戦績をマークしている新鋭。昨年はGLORYの「ニューカマー・オブ・ジ・イヤー」にも選ばれ、今後の活躍が期待されているところだ。

 通算戦績はザカリアが32勝5敗1分(16KO・TKO)、テン・パウが11勝1敗(5KO・TKO)。

 1R、構えは両者共にオーソドックス。互いにパンチと左右ローで牽制しつつ、ザカリアが中段後ろ回し蹴りを放てば、テン・パウも踵落としで応じるなど、早くも持ち味をぶつけ合う。

 しかし、ひとたびザカリアに火が点くと、左右ボディ3連打、飛びヒザ蹴り2連打、そしてさらなるパンチのラッシュで波状攻撃。テン・パウも内回し蹴りで強襲にいくが、強気なザカリアはすぐに上段後ろ回し蹴りとバックハンドブローを返す。両者の見応えのある攻防に会場からは拍手が起こった。

 2R、ザカリアがパンチのフルスロットルから上段回し蹴り。テン・パウの上段回し蹴りもザカリアの側頭部をかすめる。ザカリアは拍手で挑発するが、直後にテン・パウの左ミドルを喰らうなど危ない場面も。

 それでもパンチですぐに押し返すのはザカリア。テン・パウの後ろ回し蹴りにザカリアが右オーバハンドを合わせる。テン・パウも頭の位置をずらしたり足で押したりして、クリーンヒットはまぬがれているか。

 3R、ザカリアはテン・パウに左ジャブを突かれると、パンチの倍返しに二段飛びヒザ蹴りと旋風脚。テン・パウは疲労の色が濃く、口も開いてきた。終盤にかけてはザカリアが随所に剛腕コンボを振るいまくり、テン・パウを防戦一方へと追い込んだ。

 観客を盛り上げることも忘れなかったザカリアは、勢いのある新鋭相手に持ち味を存分に見せての判定勝ち。テン・パウは試金石の一戦に敗れ、フェザー級の上位戦線から一歩後退となった。


Co-Main Event
▼ライトヘビー級 3分3R
○ルイス・タヴァレス(29=オランダ/同級2位)
判定5-0 ※30-26、30-26、29-27、29-27、29-27
×ステファン・サスペラギー(35=フランス/同級5位)

気迫の表情で強打を振るうタヴァレス

 タヴァレスはEnfusion重量級の王者として活躍。昨年からGLORYに参戦し、アルトゥール・ゴロフ(ラトビア)に判定勝ち、トップランカーのフェリペ・ミチェレッティ(ブラジル)に判定負け、マイケル・ドゥート(オランダ)に判定勝ちという戦いぶりだ。

 対するサスペラギーはそのミチェレッティにダウンを奪われながらも、延長Rに持ち込んで逆転判定勝ちを収めている。

 通算戦績はタヴァレスが61勝8敗(22KO・TKO)、サスペラギーが49勝9敗2分(28KO・TKO)。

 1R、構えは両者共にオーソドックス。サスペラギーは足を使って常に動きながら、右ボディストレート、左ボディ、右フックからのヒザ蹴りなど角度をつけた攻撃。しかしほどなく、タヴァレスはサスペラギーのワンツーをかわすと、直後に強烈な右ボディを叩き込み、先制のダウンを取る。

 サスペラギーは腹を抑えて倒れ込むが、気力を振り絞って立ち上がり試合再開。タヴァレスは左右ボディ、ヒザ蹴り、左ハイで追撃に入る。サスペラギーは持ち前のタフさを見せて持ち堪えた。

 2R、腹が真っ赤に腫れているサスペラギーだが、ダメージから少し持ち直してきたか、ロープ際で左方向に足を運びながら蹴りを散らす。パンチをかわされる場面が増えたタヴァレスは構えをスイッチして左ミドルを蹴る。

 3R、タヴァレスはサウスペラギーの前進攻撃をいなしつつ、時おりクリンチに捕らえてのヒザ蹴り、そして離れ際には左右フックを振るう。サスペラギーも右アッパーや左ハイで放ちながら懸命に追い上げ。サスペラギーは終了間際に左ハイで惜しい場面も作るが反撃もここまで。タヴァレスが判定勝ちで2連勝を飾った。


Featured Fight
▼ライト級 3分3R
○モハメド・ジャラヤ(23=モロッコ)
判定5-0 ※29-28、30-27、30-27、30-27、30-27
×マサロ・グランダー(25=南マルク)

グランダーに対し右の拳を振り抜くジャラヤ。試合は一進一退、白熱の攻防となった

 ジャラヤは元Enfusion -67kg王者。十代の頃からオランダでは逸材として期待され、アグレッシブなファイトスタイルと名勝負、時には問題行動でも知られる人気選手だ。GLORYではウェルター級で1勝1敗、ライト級に下げて1敗、とまだ本領を発揮できていない。

 対するグランダーは新生K-1に参戦した経験を持ち、GLORYでは4勝5敗(1KO・TKO)。近年はフェザー級を主戦場としていたが、2勝4敗と結果を出せず、再びライト級に復帰している。復帰1戦目で勝利し、今回のジャラヤ戦で2連勝を狙う。

 通算戦績はジャラヤが64勝8敗(36KO・TKO)、グランダーが33勝13敗4分(20KO・TKO)。

 1R、構えは両者共にオーソドックス。ゴングと同時に間合いを詰めて顔面ヒザ蹴りを突き上げるジャラヤ。グランダーは鋭い左ジャブを起点に、左右ボディ、左ハイ、左ミドルにテンポ良く繋げていく。

 今度はジャラヤが頭と上体を滑らかに振る動きからパンチのコンビネーション。グランダーもテンカオを巧く当てている。

 2R、ジャラヤがワンツーから斬り込み、パンチを一気にまとめると、グランダーも同様の攻撃を返して、さらに飛びヒザ蹴りも追加。ジャラヤは危うく被弾しかける。

 互角の展開が続く中、ジャラヤは間合いが遠い時には左右ロー、近い時には左右ボディ&アッパーを当てて勢いづく。グランダーはやや押され気味。終盤にはジャラヤの右スーパーマンパンチもヒットした。

 3R、なおも激しいコンビネーションの攻防。額がつくほどの距離から拳を交互にぶつけ合う時もあれば、ジャラヤが左フックから右ロー、グランダーが左ジャブから右ミドルなど、対角線攻撃の応酬に出る時もあり、両者は譲らない。

 グランダーの鋭いテンカオがヒット。ジャラヤはやられたら1発2発を多めに返す。終了間際には再びジャラヤの右スーパーマンパンチが惜しい場面を作った。

 ジャラヤが白熱の攻防を判定で制して再起。グランダーはライト級復帰2戦目で黒星となった。


GLORY 74: Arnhem 試合レポートはこちら

Super Fight
▼GLORY世界ミドル級タイトルマッチ 3分5R
○アレックス・ペレイラ(ブラジル/王者)
KO 1R 3分00秒
×エルトゥルール・バイラク(トルコ/同級1位/挑戦者)
※ペレイラが5度目の防衛に成功。

Super Fight
▼フェザー級 3分3R
○セルゲイ・アダムチャック(29=ウクライナ/同級1位)
判定3-2 ※29-28、29-28、27-30、27-30、29-28
×アレクセイ・ウリアノフ(31=ロシア/同級3位)

Super Fight
▼ライトヘビー級 3分3R
×マイケル・ドゥート(オランダ/同級6位)
判定5-0 ※29-26、30-25、30-25、30-25、30-25
○アリエル・マチャド(ブラジル)

Super Fight
▼ライト級 3分3R
○イタイ・ガーション(イスラエル/同級7位)
判定4-0 ※28-28、30-26、30-26、30-26、30-26
×リー・ヂァォイェン[Li Zhaoyang](中国)

Under Card
▼ヘビー級 3分3R
×ジャファー・ウィルニス(オランダ/同級4位/112.3kg)
判定1-4 ※29-28、28-29、28-29、28-29、28-29
○アントニオ・プラズィバット(クロアチア/同級6位/107.7kg)

Under Card
▼ミドル級 3分3R
○ドノヴァン・ヴィッセ(スリナム/同級2位)
判定4-0 ※28-28、29-27、30-26、30-26、30-26
×シーザー・アルメイダ(ブラジル)

Under Card
▼ヘビー級 3分3R
×ジハド・ケペネク(トルコ/同級8位/112.0kg)
延長判定2-3 ※9-10、9-10、10-9、10-9、9-10
○ノーディーン・マハディーン(フランス/同級10位/105.4kg)
※本戦は判定0-2(27-29、27-29、28-28、28-28、28-28)。

Under Card
▼ミドル級 3分3R
×ケヴィン・ヴァン・ヒークレン(オランダ/同級9位)
判定5-0 ※29-28、30-27、30-27、30-27、30-27
○アーリック・ボケメ(コンゴ/同級10位)

Under Card
▼女子バンタム級 3分3R
×イー・シュィー[Yi Xu](中国)
判定1-4 ※28-29、29-29、28-29、28-29、28-29
○ベッカ・アーウィン(アメリカ)